アキバのつぶやき
2025.10.14
目標とフィードバックについて
「目標を明確に持て」というのは、ビジネスの現場では,もはや常識になっています。ところが、その“常識”が逆に人を苦しめていることも多いのではないでしょうか。なぜなら、目標はあくまで「行動を方向づけるための仮説」にすぎず、現実のビジネスは常に仮説修正の連続だからです。
多くの人が途中で挫折するのは、目標が間違っていたからではなく、目標を絶対視してしまったからです。たとえば「年間契約件数何件」と掲げるのはわかりやすいけれど、その数字が出てきた背景が、どんな顧客と、どんな関係を築いて、どんな価値を提供するか?というストーリーが抜け落ちています。
数字はあくまで物語の「結果指標」であって、物語そのものではございません。そこで重要になるのが、「フィードバック」です。
だから、行動→結果→修正というサイクルをどれだけ短く、正確に回せるかが成果の質を決めます。如何にして、PDCAを回し続けることが出来るかに尽きます。。つまり、成功とは目標の達成ではなく、仮説修正の精度を高めるプロセスなのです。
ドラッカーの言葉に、「計画とは、未来に対する現在の意思決定である」とあります。すなわち、未来は変数だらけだということです。だから、最初に決めた目標を守り抜くことよりも、フィードバックを通じて目標そのものを進化させることのほうが、実務的にははるかに合理的です。
結局のところ、ビジネスにおける「強さ」とは、最初から正しい目標を立てる力ではなく、質の良い仮説を立てる仮説力と、それを修正していく、継続力と洞察力の巧拙という事になるのです。
2025.10.13
「売れるものを作る」不動産ビジネス
ユニクロの柳井正会長が、日経新聞の取材で語った、「作ったものを売る商売から、売れるものを作る商売へ」という言葉は、製造業だけの話ではございません。私たちの不動産ビジネスにも、そのまま響く言葉です。
これまで多くの業者は「できた物件をどう売るか」という発想で前線に立ってきました。間取り、立地、価格、広告。いずれも「出来上がった商品をどう売り切るか」の議論です。 でも、いま必要なのは「その物件が、誰のどんな暮らしを支えるのか」という構想から逆算して設計する発想が求められます。
「売れるものを作る」とは、単にマーケティングを強化することではございません。生活者の価値観の変化、働き方や家族構成の多様化を読み取り、「住まい」という概念そのものを再定義することだと思うのです。
たとえば、コロナ以降に増えたリモートワーク需要をどう捉えるのか。単に「書斎スペースをつけました」では不十分です。それは「作ったものを売る」発想です。むしろ「家庭と仕事の境界を柔らかくつなぐ住空間とは何か?」という問いから設計を始める。これが「売れるものを作る」につながる発想です。
今回の柳井会長の言葉の背景には、「供給と需要をつなぐ」だけの商売から、「価値を構想する」経営へのシフトがあるように感じます。不動産もまた、単なる建物や土地を扱うビジネスではなく、「人の暮らしという時間をデザインする産業」であると捉え直すべき時がきたということだろう。そのためには、営業マンも“売り手”ではなく、“共創者”でなければなりません。
顧客の生活観を聞き出し、潜在的な欲求を形にする。その対話力と、読解力と言語化力が、新しい付加価値を生み出します。営業マンに求められる能力は、多様化の時代になり、ますます向上していきますね。だからこそ、ここで差別化を見いだせる不動産業者が、生き残っていくことになるのでしょう。
柳井会長の言葉の、「売れるものを作る」は、不動産会社にとっては、結局のところ「未来の暮らしを編集する企業」に変化しろ!、に尽きます。
単に物件を売るだけではなく、「この場所で、こんな人生を描きたい」と思わせる物語を提案できるかどうかが、今後の不動産営業に求められるセンスではないかと強く感じました。
2025.10.12
トランプ大統領が平和賞を受賞できなかった理由
毎年話題を呼ぶノーベル平和賞。今年も予想に反して、ドナルド・トランプ前大統領の名は呼ばれませんでした。中東和平に一部の実績を残したとはいえ、世界が見たのは「分断」と「衝突」でした。
これは、私たちのビジネスの世界でも同じ構図がございます。短期的な成果を出したリーダーが、長期的な信頼を失うことが発生します。特に不動産、住宅業界では多く目にします。その理由は、業界の体質なのか慣習なのか、月次の契約本数を目標にして活動している企業が大半だからです。
トランプ氏は交渉術と突破力においては卓越していました。ですが、ノーベル賞が評価するのは「結果」ではなく「理念」です。
この違いは、経営における「効率」と「意味」の関係に似ています。
トランプ氏が排他的な姿勢を強める一方で、平和賞は「対話」「包摂」「信頼」といった文脈を重視します。このギャップは、まさに現代社会が抱える“成功の再定義”を象徴しているとおもいます。
経営者もまた、トランプ的リーダーシップに惹かれやすい。強い言葉と即断で組織を動かすスタイルは、一見、成果が出るでしょう。ですが、それが続かないのは、人の心が納得していないからです。
平和賞がトランプ氏を選ばなかったという事実は、政治だけでなく、私たち自身の“リーダー観”を静かに問い直しているのではないでしょうか。
2025.10.11
関係を続ける力と、終わらせる勇気
詩人・吉野弘の「祝婚歌」は、その昔、結婚式などでよく朗読されました。一見、結婚を祝う詩ですが、その本質は“関係のマネジメント論”に近いとおもいます。
「正しさを主張するために 相手を傷つけてもいいという考えを、捨てること」
たとえば、今回の自民党と公明党の連立関係は、政治の世界における長期的な協働モデルでした。理念の違いを抱えながらも、互いを尊重し、妥協と調整を積み重ねてきました。企業経営に置き換えれば、異なる文化や価値観を持つパートナー企業との「共創関係」をいかに維持するか、というテーマに相通じます。
ですが、どんな関係にも“最適期限”がございます。環境や目的が変われば、関係の再定義が必要となります。それを怠ると、関係は惰性に変わり、やがて摩擦と疲弊を生む結果を招きます。だからこそ、「終わらせる勇気」もまた、経営の力なのだと言えます。
それと、祝婚歌の中に、もう一つの示唆がございます。
「勝つこと」よりも「ともに機能すること」に価値を置き、必要なときに静かに距離を取り直す。それこそが、変化の時代をしなやかに生き抜くリーダーシップではないでしょうか。
2025.10.10
免疫細胞と哲学的思考
ニュースでノーベル賞の発表があるたびに、秋の空気が少し澄んで感じられます。科学の話題でありながら、どこか文学的な香りがするのは、受賞者たちの歩みが「人間の探求」という普遍的な営みと重なるからでしょう。
今年もまた、免疫に関する研究が注目されました。私たちの体の中では、無数の細胞たちが昼夜を問わず働いています。その中心にいる免疫細胞は、外からの異物を見分け、排除し、時には過剰に反応して自らを傷つけてしまう。まるで、人間の思考そのもののようです。
哲学的に考えれば、免疫とは「自己」と「他者」を識別する能力のことです。免疫が強すぎれば、他者を拒絶し、弱すぎれば、自分を保てない。人の社会もまた、これに似ています。異なる意見や価値観をすぐに「排除」してしまうと、思考の多様性が失われていく。
でも、何でも受け入れてしまえば、自分という輪郭が曖昧になります。
この「ほどよさ」、塩梅というバランスこそ、免疫にも哲学にも必要なのかもしれませんね。
ノーベル賞を受け取る研究者の多くは、成果を誇るよりも、「わからないことの中にいる時間の長さ」を語ります。未知と共存する姿勢。それは、免疫細胞が異物と出会いながら、少しずつ賢くなっていく過程にも似ていると思います。思考もまた、異質なものに触れることで鍛えられる。完全に同質な世界では、発見も成長もありません。
私たちは日々、自覚なく体の中で小さな闘いを繰り返しながら、生きています。免疫細胞が静かに学びを重ねるように、心もまた、出会いや葛藤を通して自分を更新していきます。
ノーベル賞の輝きの奥にあるのは、そんな「日常の哲学」なのかもしれませんね。
受賞おめでとうございます。